1.宇宙(そら)

4/9
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
 ディスカッションではトピックについて流暢に語り、壇上ではスクリーンの前で華麗にプレゼンテーションを行う。そんなシナリオに一人ニヤニヤした。  成績表には「A」がずらりと並び、研究論文が大学の機関誌に紹介されると他学生から羨望の眼差しを受ける。理想すぎるセルフイメージに酔いしれ、ふかふかのマットレスに意識が沈んでいった。 *  目が覚めたとき、ニヤけたままの口が半開きになっていた。宇宙は眠ってしまったことに不覚を抱きながら、よだれが垂れていたかどうか、手の甲で確かめた。  口を開けたまま寝て起きた後によくある、若干ののどの渇きを感じながら体を起こす。薄暗い部屋にぽつんと居ることで、ブルーインパルスのアクロバットショーなどとっくに終わった、と理解する。時間は六時半より少し前。 「ハックション!」  一発のくしゃみがボケた気分を吹きとばした。ベッドから立ち上がり、とりあえず手ぶらで紅の部屋を出る。二階から階段の下に目を向けると、明かり漏れているのが見えた。  誰か帰っている。五人のシェアメイトのうちの誰か。または、全員か。ゆっくりと階段を降りながら、初めてシェアメイトと顔を合わせるときの自己紹介を頭の中でシュミレートした。 「はじめまして。えっと……よろしくお願いします!」
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!