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宇宙は腹が減っていた。寝起きの水一杯だけでは腹は満たされない。思い出したように冷蔵庫を開けた。そして、がっかりする。
「無いし」
大きな冷蔵庫のすぐ横にごみ箱があった。そこに、当てにしていた赤い箱が無造作に捨てられていた。昼に買ったフライドチキンの残り。それを電子レンジで暖めようとしたのに。それが今夜の晩御飯になるはずだったのに。
箱に自分の名まえを書くのを忘れていた。オーナーからもらったメールに明示してあったのを思い出す。
『持ち物には全て名まえまたは部屋名を明記してください。名まえのないものは、ハウスのものとなり、全員で共有または管理人が廃棄することになります』
宇宙は少しの屈辱感と共に、ごみ箱に面と向かった。頭を三十度ほど傅き、神妙な面持ちで「名まえの無いもの、それはみんなのもの」というシェアハウスの掟を胸に刻んだ。
「ヘイ、ニーちゃん、なに探してるの?」
「いや、見つけた。もういいです」
思わず答えて振り返ると、キッチンの入り口に、国籍不明の男の人が立っていた。肌の色が浅黒く、目の大きなアジア系の外国人だ。シェアメイトの一人か。
「あ、ごめん。ニーちゃんじゃなかった」
日本語がぺらぺらなのに少し驚く。背は日本人の平均身長並みで、太っても痩せてもいない。黒くテカる髪は大きくウエーブしている。この人物に、とりあえず自己紹介する。
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