2.シェアメイト

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 高校卒業後、進学するなら地元の大学をと両親は希望していた。宇宙の体を心配し、自宅から通えるところと。だが宇宙は、地元から離れた都会の大学を選んだ。親元を離れて自立する。親に心配をかけるのではなく、強く生活していきたい。そんな思いもあった。 「静か……」  靴を脱いで玄関から上がると、ちょっとしたエントランスホールと言えるような気持ちの良い空間が広がっている。吹き抜けの高い天井からはシンプルなデザインの照明が下がり、住人も来客も分け隔てなく迎え入れる。  二階に上がる階段は重厚で幅広く、調度の施された手すりが家の歴史を感じさせる。今日この家に初めて来たとき、宇宙はこの階段を恐る恐る上り、紅の部屋のカギを開けたのだった。オーナーからのメールに築年数の情報はなかったが、生まれは少なくとも自分の親より、下手したら祖父母よりも古いと想定してみた。 「良い匂い」  階段脇の小さなテーブルに、大きな花瓶がある。誰の手によるものか、満開の桜が見事に活けてあった。  その桜の花木は、この家の誰をも歓迎するように、中心から各方向に枝を広げ、ほのかな春の香りを空間に漂わせていた。宇宙は、初めてこの家に到着した時と同じように、桜に近づくと鼻先を向けた。
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