1.宇宙(そら)

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 挨拶は短くシンプルに。ペコリと頭を下げてスマイル。初対面は、爽やかさと清潔感が大事だ。だが、ジーンズにパーカーだと子供っぽいだろうか。 ボォーーン…… 「うおっ」  段上で上げた声は低かったが、心臓は高く跳ね上がった。階段下にある大きなノッポの古時計が、六時半をお知らせしただけなのに、家という平和であるはずの建物に、破壊的な大音響がぶち込まれたかように体が反応した。  それは突然やってきたわけではなく、ある意味定期的な発信なのだが。とりあえず、階段から転げ落ちなかったことに感謝する。  まるで戦国武将のお城に侵入した忍者のように、そろり足で階段下から明かりの方へと移動。面積の半分以上が曇りガラスのキッチンドアをそっと開けると、電気はついていたが誰もいなかった。SNSチェックをしたあとのスマホをポケットに落とすように、「はじめまして」のセリフを腹に落とす。  シンクの前に立ち、引き出しやら棚やらを開け閉めする。足音は立てなかったのに、バタバタという音がキッチンに鳴り渡った。見つけたコップに水道の水をジャーっと注ぐ。 「はーっ」  飲み物を一気に飲み干した後、人はどうして「ふー」だの「あー」だのと発しながら息を吐くのだろうか。とにかく、この水のおかげで乾いた喉が潤い、ここまで緊張で上がりっぱなしだった肩が下がった。
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