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「ご主人」私は少なからず焦った「私は久葉野氏に、いやあの男性に何か失礼な態度でも取ったのだろうか?」
「本当に記憶に残ってないんだね」そう言うと主人は幾分いつもの柔和そうな笑みを覗かせた「タルちゃん、ちょっとヒドかったよ、あの人との間に何があったのか知らないけれど、最後は悪魔に取り憑かれたって言うか、まるで悪夢にうなされてるみたいだったよ」
「それで私は何かしましたか?」私は恐る恐る訊いた「その男性に暴力を奮うとか」
主人は、自分が見た範囲で私が久葉野氏に手を上げる様な場面はなかったと言った。
「もしも見てたら警察、呼んでるよ」主人の言葉からも事態の深刻さが窺える「でも言葉には気を付けなきゃ駄目だよ。大学ノートを放り投げて『よくも、こんな下手な歌を投稿する気になったもんだ』とか汚ない言葉も使って、まるで別人だったよ『お前など地獄におちろ』『呪われるがいい』とかってね」
「ご迷惑おかけしました」真摯に頭を下げると、主人は私を咎める様な事は言わなくなったのだが 、続いて久葉野氏の態度が立派だったとか、紳士だとか言って来た。
その延々と話し続ける主人にも辟易しかけた時、私は急告と久葉野氏が書いたコピー用紙の右下に、何か小さく書いてある事に気が付いた。
よく見るとそれは短歌の様だ
当然、詠み手は久葉野氏であろう。
その短歌とは以下のものである。
「目覚めては 明けが虚しや 空の星 夢の記憶は いずれ ふたたび」
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