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不透明人間になった次の日、俺は一応、人間になっていた。人の姿が見えるようになったのだ。
今思えば、昔は見えない物が多すぎた。不透明人間になった時の方が見える物が多かった。
姉の優しさ、家族の絆、希望、そして夢。
バンドマンになる事は諦めた。姉からは、夢を追いかけるのは悪いことじゃあない等と反対された。音楽の道から手を引くことを決意した理由は、(なんて言うとやや大げさかもしれないが、)相応しくないと思ったからだ。振り返ってみれば、バンドマンやロックンローラー、スーパースターといった肩書きに憧れていただけだったのだ。
それに新しい夢も見つけた。学校の先生となり、生徒の夢を育む事だ。俺の現時点での学力では、教師になれる可能性は限りなく低い。しかし、そのために今猛勉強している。夢を夢物語ではなく、目標とするためだ。
とりあえず人間に戻ってから、初めて見られるようになったものがある。妹の面倒だ。この頃、妹の勉強を見ている。
と言っても、これは今までかけた面倒の、帳尻合わせのようなものでしかない。まだ貰った分が多すぎて、黒字の状態であることに変わりは無い。
必ず、赤字にしてやろう。
表面だけで形成されていた不透明人間に、少しだけ、ほんの少しだけなのだけれども、中身ができた。
今は僅かだけれど、これから長い人生の間に積み上げていけばいい。
一応でもなく、とりあえずでもなく、いつか胸を張って、自分が人間なのだと言えるように。
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