不透明人間

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病院に行くとき、車道上には車の姿など一切見当たらなかったが、ある場所で視認できる車を何台か見つけた。駐車場だ。どうやら人が乗っていない車であれば透明にはならないらしい。 途中手汗が酷く、繋ぐ手を左手に変えたいとお願いしてみたのだが、 「もう片方の手は空いてないからダメ」 と、合意には至らなかった。 十五分程度歩き、(引っ張られ、)漸く目的地に到着したのだが、頼みの医師は 「ストレスによるものではないかと思われます」 としか診断結果を出さなかった。いったい誰に思われた結果なのか。まったく。医者というものは何でもストレスで解決したがる。ここまで足を運んだ意味がまるで無い。 強いて意味を見出すとすれば、最愛の妹と恋人繋ぎで十五分間散歩デートをするという、人生に一度あるかどうかのビッグイベントに立ちあえた、というくらいのものだ。あれ?最高に有意義だ。 そんな人生に一度あるかどうかのビッグイベントを、折り返しで二回目を堪能している現在、踏切を通り過ぎる電車を呑気に眺めている俺に、妹は語りかけた。 「ストレスっていうと、昨日の喧嘩じゃない?お姉ちゃんとの」 「喧嘩?ああ、そんな事もあったな。でも多分違うんじゃないかな?」 妹の言うように、確かに先日姉と他愛ない事で喧嘩をしたのだが、ストレスにはなっていない。今まで忘れていたくらいだ。 「そうかな?なら良いけど」 良くはないと思うけど、親身になって心配してくれる妹という存在は、例え目には映らなくとも女神じみている。いや、見えなくなった事で、より一層神へと近づいた感すら有る。信仰が深まる。 こうして偶像崇拝を満喫しながら、自宅に到着した。
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