不透明人間

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玄関をくぐり、妹に引っ張られるがまま、自室へと直行した。扉が閉まり、鍵を掛ける音がした。 決して俺が鍵を掛け、妹を監禁しようとした訳ではない。その辺りの、超えてはいけないラインは弁えているつもりだ。 鍵を掛けたのは恐らく妹だ。とは言え、妹だって俺を監禁した訳ではないだろう。もしも妹に監禁されたとしても、俺ほどのレベルになると、歓喜する他は無いのだが。 「お兄ちゃん、こうなってしまった以上、解決策や原因よりも先に考えなくちゃいけない事があると思うんだよ」 妹は急に語り出した。いや、『急に』と言っても彼女を視認できていれば、前振りのような素振りがあったのかもわからないが、今置かれた状況では、例えどんなジェスチャーをされても、俺にとっては『急に』でしかない。まあ、そんな事より、妹の発言だ。 「『考えなくちゃいけない事』?何だ?」 「お兄ちゃんがこのまま安全に暮らす方法だよ。解決策が浮かばない現状、お兄ちゃんには何が見えて、何が見えないのか。それをしっかり把握しておかないと、予期しないものが透明になっていたら危険だよ」 このまま妹の姿を二度と拝めずに、偶像に拝み続けるのは御免だが、この奇妙な現象の詳細を会得しなければ、安全に生活する事は難しいだろう。 「そうだな」 「お兄ちゃんの見えないものって、何があるの?」 「えーっと……、人の姿、走行中の車だな」 「さっき外ですれ違った自転車は見えた?」 自転車?すれ違ったのか?いつ?どこで? 「その反応だと、見えなかったみたいだね」 「そうらしいな。……あ、それとお前の服が見えない」 「服?……じゃ、じゃあ、これはどうかな」 妹がしどろもどろにそう言うと、目の前に縞柄の模様をした、逆三角形の何かが現れ、すぐに消えた。 「なんだ?今ピンク色の何かがサブリミナル効果的に出現した気がするんだが」 「な、なんでもない!とにかく、今のは見えたみたいだね」 「ピンク色の縞パンが本当に縞パンだったのか、気になって夜も眠れなくなってしまいそうだ。もう一度見せてくれ」 「変態お兄ちゃん!」 変態なのはどっちだ。いや、俺はどちらにせよ変態なのだから、『変態なのはどっちもだ』と一字付け足しておくとしよう。
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