不透明人間

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「お兄ちゃん、私はこれを持ち歩くことにするよ。これを目印にして、いつでも私を頼ってね」 どこから取り出したのか、妹は青色の猫の形をした、小さい人形を宙に浮かべた。青色の猫だけに、四次元ポケットから取り出したのかもしれない。 それはともかく、何とも頼りがいのある妹だろう。愛らしいだけではなく、ここまでしっかり者だと婿入りしたくなる。いや、どこの馬の骨ともわからんやつより確実に劣る俺なんかに妹はやらん! なんて事を考えているうちに、妹人形は手を振って、浮遊しながら部屋を出た。 妹が部屋から出た途端、疲れがどっと押し寄せてきた。これほどまでに奇特な環境に置かれているのだ。妹パワーを借りずして、気力を保っていることは不可能だったのだろう。 ベッドに仰向けで寝転び、状況を整理する。 俺には周りの人間を目視できない。言ってしまえば、周りの人間全員が透明人間になってしまったのだ。 いったい何故こんな事が起こったのだろう。突飛な話過ぎて、見当もつかない。 検討すべき事は何なのか。妹の言うとおり、このまま安全に生活する方法を模索すべきだろうか。元に戻る方法を探るのは、横暴だろうか。 横暴と言えば、『 周りの人間全員が透明人間になってしまった』という物言いは横暴過ぎる。真相はむしろ逆だ。周りの人間全員が透明人間ならば、人間という生物は、透明なのが普通という事になる。 この世界では、この視界では、俺だけが『不透明人間』なのだ。 急激な眠気に瞼が重くなる。まあ、用事があるという訳でもない。夕食まで寝ても構わないか、と思うが早いか、深い眠りへと落ちていった。
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