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まだ何かあった気がする。疑問に思った事が何か……。
『どこから取り出したのか、妹は青色の猫の形をした、小さい人形を宙に浮かべた』
俺が妹の推理に疑問を抱いた後の事だ。妹はどこからともなく、人形を取り出した。いったいどこから取り出したんだ?
『もう片方の手は空いてないからダメ』
もしかして、妹は病院にバッグを持っていったのか?人間が持つ物でも、見える物と見えない物があるのか?
……駄目だ。どれだけ認識の違いを探しても、それは表面をなぞっているだけだ。もっと、もっと中身を見なくてはいけないのだ。『中身』を……。
『違う!私が言いたいのは……!』
……思い出した。これに続く言葉を。
いや、忘れていた訳じゃないんだ。見たくなかっただけだったんだ。
『アンタは、中身がまるで見えてない!中身がまるで無い!』
俺には諦めきれない夢がある。しかし、ギターの練習など、週に一時間もしていない。
狭き門だということも十分に承知している。ただ、知っているだけで、実感はまるで無い。
『表面だけ見て、良いところだけを見て、面倒な中身を見ることができない!』
俺は『妹』が大好きだ。でも、面倒を見たことがない。面倒は、見るものではなく、かける物だと決めつけた。
本当に俺は、妹を愛しているのだろうか。顔が好きなのか、もしくは『妹』という肩書きが好きなのか、それすらももうわからない。
『大事なのは夢だろ!希望だろ!夢を追い続けて何が悪いんだ!』
悪いわけが無い。ただ、こんな借り物の言葉で着飾っても、夢も希望もへったくれも無い。俺の夢は、夢物語でしか無く、目標と呼ぶにはあまりにもお粗末だった。
ずっと勘違いをしていた。自分の中身を過大評価していた。俺はもともと不透明人間だった。
先行き不透明の、不透明人間。
表面だけで形成された、不透明人間。
中身が無い故、中身を見られない不透明人間からは、表面すらも奪われた。
まず、人の外見は取り除かれた。
ファッションになり得る、車、自転車、バッグは、人に接触すると見えなくなった。
表面を取り除かれた不透明人間は、いよいよ中身を見るしか無くなった。
今の今まで本質が見えていなかった、という本質的な事に、漸く気付いたのだ。
見えないものを見よう。装飾でも、粉飾でもなく、今までの自分を払拭しよう。心の奥底に決意を残して、夢から目覚めた。
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