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そういえば、と爺様が爽矢さんに尋ねた。
「あの日記、なにが書いてあったんや?」
「知らん。聞いてないからな。お前はきいたか?高天。」
「あ――はい。借りました。健から。まだ少ししか読めてないけど。」
健から菊端になることを承諾するメールを受け取った後、僕らは二人きりで会って話をした。僕も健も、わけのわからない運命に翻弄される身として感情を共有し合ったのだ。
そして僕は健に、あの日記に何が書かれていたのか、なぜあの日記を読んで素直に菊端になることを承諾したのか質問を投げかけた。すると健は僕に日記を貸してくれたのだ。
先代の菊端である紅緒という女性がどんな人生を送ったのかが描かれたその日記を僕は家に帰ってから恐る恐る紐解いた。
彼女の日記は、自身が菊端として本家に呼ばれたところから始まっていた。
彼女の日記は、日々の事実をただ記したものではなかった。まるで詩集のように抽象的で、何があってそんな言葉をこの日に記したのかわからないことが多かった。
ただ一冊目の半分を読んでわかったのは、紅緒さんが兄の京太郎さんに対してコンプレックスを抱いていたということだった。
『兄にはなれない、何をしても』
『男でないことは罪だろうか』
そんな言葉が何度も出てきた。
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