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雄一さんは相変わらず淡々と答える。
「九頭龍――今爽矢さんが受け継いでいるのと同じ力の持ち主ですよ。」
その言葉で僕と健の首はほぼ同時に同じ方向――爽矢さんの方に向いた。
その反応を予測していたのか、爽矢さんは大きくため息を吐いて手を大きく振った。
「ちげえから、先代の九頭龍の子どもだから。何度も言っているだろうが。俺はな、先々代の記憶を持ってるんだ。だから修二郎殿と面識あるんだよ。」
「あ、そっか。」
そういえば何度もそんなやりとりをしていたように思う。前に、先代の紅緒さんのお兄さんである京太郎さんは先代九頭龍かと爽矢さんにはなしかけ、爽矢さんは一蹴していたっけ。
「先代九頭龍も男だった見てえだな。勲って名前だったか。」
「ああ。そうや。勲殿とは、儂は結局会ってへんからどんな人かまでは知らんがな。」
爽矢さんと爺様の話を、雄一さんは頷くことで肯定した。
「私の父とされている神薙勲は、死地に赴く前に、僕の母との間に子ができたと一族の前で宣言したそうです。
そして、本家に母を託しベトナムに行ったと聞いとります。
しかし身重の母も、姑獲鳥の手にかかり、瀕死の母の胎から、私が取り出されたと――。」
話しの内容に対して、表情は無表情のまま。
僕は思わず息を呑んだ。
健も同様の反応だった。
そして雄一さんは話を続けた。
「私はその後、当時の御当主様の命で、幾人かの里親を経て、修二郎殿に引き取られました。ですので私自身は哨戒士や姑獲鳥と関わった記憶がありません。」
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