第六幕

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「あの、爺様と健也さんの知っている哨戒士って…どんな人だったんです?」  今までも何度か聞こうとしたが、哨戒士が集まればおいおい話すといわれていたので深くは突っ込まなかった。  でも、やっぱり今聞きたい――。  僕の言葉に、健也さんと爺様は互いに目くばせをした。  この質問に答えるか、答えるのならどちらが答えるか、伺っているのだろう。  先に口を開いたのは、健也さんの方だった。 「私は、先代の哨戒士の胡蝶であった神薙匠と縁があります。」  先代――つまり、紅緒さんの代だ。ベトナム戦争や学生運動の起こっていた頃。胡蝶といえば、確か強い脚力を持つ哨戒士だったはず。 「その方は、私の従兄にあたる人で、私に武術の基礎を教えてくださいました。匠さんは、兄貴肌のある、気持ちのいい性格でした。お二方は京太郎さんにお会いになったのでしたね?」  その問いかけに僕と健は黙って頷いた。 「では、先代のことを少しは聞いたんでしょう。彼らは、わが師のことをなんと話していましたか?」  なんと話していたか――。  そうだ、なにか言っていた。彼は、京太郎さんは、どういっていたろう?  そう、まず爽矢さんのことを“勲さん”って言った。それは先代の九頭龍であった人のこと――。  それからはほとんど、紅緒さんのことを話していた。どんな生き様だったかを。  でも確か、何かいっていなかったか?  そうだ――確か。
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