第六幕

14/33

331人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
「両脚を千切られた?」  思わずオウム返ししてしまう。爽矢さんが口元に手を当てちらりと雄一さんを見やったのが目に入った。雄一さんの表情は変わらない。 「ええ。彼は脚を失った状態で見つかった。」 「え、でも…。あれですよね。胡蝶の持つ力って。」  確か、その千切られたっていう脚に関わるものなんじゃあ?  僕の言葉に健也さんは頷いた。 「ええ、胡蝶の力は脚に宿っています。異常なまでの跳躍力と蹴りが胡蝶の能力。その力を奪われた状態で彼は見つかった。匠さんは、何故脚を失ったのか言いませんでした――。 彼は生死の境をさまよいましたが、一時容態は安定しました。しかし、結局彼は数年の後なくなりました。病に倒れて。 ですので先代の哨戒士はもういません。 彼が一時とはいえ、戦いを生き延び生存したことは、彼の親族と幹部以外には秘されました。ですので京太郎さんはご存じありません。私は先代哨戒士については一定関わりを持っていました。もし他に聞きたいことがあれば言ってください。」  すると、健が口を開いた。 「病って…。それは、自然死ってことですよね?」 「…ええ。」  健也さんが頷く。  その答えに健は少し考え込むように顎を右手で撫でた。そして少し逡巡してまた口を開いた。 「じゃあ、先々代はどうなんですか?」  今度は爽矢さんと爺様が顔を見合わせた。  しばらく視線で相談し、爽矢さんが口を開いた。 「先々代のころ――それはまあ。俺が覚えている限り、日本が軍事国家に傾いているころだった。第二次世界大戦へと日本が進んでいたころ。俺たち哨戒士も召集令状を受けて戦場に行かなけりゃいけなくてな…。俺は陸軍に配属された。 戦場で何とか軍上層部の目をかいくぐりながら姑獲鳥の動きを牽制するために動いたが――思うようにはいかなかった。 俺は結局ビルマで戦死したし、他の奴らも同じようなもんだな。 前にも言ったが、高天は俺たち4人の哨戒士に比べ、生まれる周期スパンが長い。 お前の前の高天はこの戦争の時期に生まれていた。お前に比べ、厳つい性格の奴で、よく菖蒲と言い合っていた。 俺もこんな性格だからな、色々口出されたのを覚えている。懐かしい話だ。」
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

331人が本棚に入れています
本棚に追加