第六幕

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 空が見えた。  きれいな空。青く澄んだ空の色それがゆっくり反転した。  そして次の瞬間には私はクッションの上に落ちていた。  先輩たちが歓声を上げているのが聞こえた。 『すごいな!自己記録、大会中に4㎝も一気に更新だ!どうなってんだお前?』 『それにまだ余裕があったし!目測だけど10㎝位余裕じゃない?ジュニア記録いけんじゃね?』  笑いながらそう声をかけられた。  でも私は怖かった。  なんだ、あれは。今、自分の中を、わけのわからない力が走って行った。  結局私は、その跳躍で優勝が決まったため、それ以上は跳ばなかった。  それに心底ほっとした。  きっと、もう一度跳んだら、私は自分が化物だと証明してしまう。  その確信があった。  その時の私であれば、きっと2mだって3mだって跳べてしまっただろう。  それ以降、私は自分の力を過剰なまでに抑えるようになった。当然、大会での記録も悪くなる。周りは溜息を吐く。それでもかまわなかった。  私のあの力をもう一度使うのは未だ早い。そう言い聞かせて。  そのいつが、何時なのか未だ分からないけれど、私はそれ以来、誰かを待つようになっていた。  誰かがやってくるその日を待つようになっていた。
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