第六幕

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「あの候補の中から一発で引き当てるなんてな。さすが高天か――。」  爽矢さんはまじまじと僕を見つめた。その視線を気にする余裕もなく、僕は彼女――御剣早苗さんを見ていた。彼女の周りには、同じ部活の人達が集まってちょっとした騒ぎになっている。  しかし、彼女はそんな周囲の人間の反応にはまるで見向きもせず、ただじっとこちらを見ていた。 「こっちを見ている…。」 「あいつにも分かったのさ。お前が高天だってことが。」  爽矢さんの言葉に、健が顔をしかめる。やや顔色が悪く、パーカーを頭にかぶったまま。 「俺、わかんなかったですけど…。」 「俺が先代以前の記憶を持っているけど、お前が持っていないのと同じように、こういうのは個人差があるもんだ。気にするな。」 「あの人も、記憶あるんでしょうか…?」 「さあ、今思い出したのかもしれないし、思い出してないけど、なにか感じただけかもしれん。まあともかく後で会いにいくぞ。」  爽矢さんの言葉に、僕と健はただうなずいた。  あの少女――御剣早苗さんのほうをじっと見つめながら。
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