331人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
早苗さんはその後、体調不良を訴え試合を棄権した。
先輩と思しき同じユニフォームの男女に何事かを告げると、まっすぐこちらに向かってきた。
「…。」
僕の隣にいる二人には目もくれず、ただ僕を見ている。
編みこまれた黒い髪は、さっきのジャンプで乱れている。彼女はそんなこと、全く気にしていない様子だ。ゆっくりとこちらにやって来る。
そしてすぐ近くまでくるとゆっくりと口を開いた。
「貴方、誰?」
その一言が僕らの間に静かに落ちた。
「…。」
名乗るべきか少し逡巡したが、自然と口から言葉が漏れた。
「高天。」
彼女はこちらをじっと見ている。
「御剣高天――。御剣家の次期当主だよ。」
その答えを聞いて、彼女は静かに膝を折った。そしてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「愚かな人の子の末裔よ。貴方を待っていた。」
最初のコメントを投稿しよう!