第七幕

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 夕方になって、早苗さんは本家邸宅に訪れた。部活後そのままやってきたのだろう。白いエナメルバッグを肩から下げて。  髪の毛は編みこみをほどいて、後ろで一本の三つ編みにしている。  上女中によって爺様の部屋に案内され、少し緊張した面持ちで下座に座る。  西京極の運動公園から爽矢さんに連絡を受けた爺様は着流し姿で彼女を出迎えた。 「よう来た。新たな胡蝶さん。名前を教えてくれるか?」  爺様は満面の笑みで彼女にそう声をかけたのだが、まさか現当主の部屋に案内されるなんて思わなかっただろう早苗さんはこわばった顔を崩さない。 「えっと…。御剣早苗です。あの、当主様が来られるなんて知らなくて。こんな恰好でごめんなさい。」 「かまへん。そう緊張しなさんな。まあ座り。菓子でもどうや?」  所在なさげな早苗さんに爺様は気さくに話しかけて座るように促す。そして自分の秘蔵の金平糖を取り出してすすめる。  早苗さんはそんな風に優しい顔を向けられるほど身をひいていっているようだ。 「えっと、あの。お構いなく。」 「そうか?まあ寛いでくれや。」  そう声をかけられてもすんなり寛げるものではない。彼女は苦笑で返した。  そしてみんなが席に着いて、爺様は少し視線を落とし、 「さて――。」
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