第七幕

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   爽矢さんの言葉に彼女はただじっと自分の握り締めた拳を見つめていた。  そうして1分か、2分か――もしくはそれよりもっと長い時間か流れた。  早苗さんはゆっくりと口を開いた。 「私は――ただ、ただ自分がもっと高く跳べると知っていただけです。他人よりずっと高く高く跳べるって。そしてそれが、異常だといわれるレベルだって。やから哨戒士とかそんなのは知りません。 でも――。」 「でも?」  爽矢さんが問い詰める。早苗さんはうっと言葉に一瞬詰まった後、言葉を一つ一つ選ぶよう呟いた。 「さっきの話聞いとって、なんか、納得したっていうか、すとんときたっていうか――。特に、胡蝶って名前を聞いた時、なんかこう――待っていたものを手に入れたって感じがしたんです。ずっとずっと、誰かを待っていたんです。そうして、高天さんがやってきて、“ああやっとだ”って、そう感じました。 だから、えっと…。お名前なんでしたっけ?」 「爽矢だよ。」 「爽矢さんが仰る、気づいていたってことがこの感覚のことをいうんなら、そうです。気が付いていました。そして、私は誰かを待っていた。そして――高天さん。貴方が私の前に現れた時、貴方こそが私の待っていた人だと確信を持った――。」
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