第七幕

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「今の菖蒲が誰かは知らん。が、もちろん先々代の菖蒲とは顔見知りだし、もちろん修二郎殿もよく知っている。 そして俺は、先々代に体術、英会話、交渉術を教わった。 菖蒲はめちゃくちゃ頭がいいやつで、先見の目があるのはあるんだが、なんと言うか…。 癖のあるやつでな。」  爽矢さんが苦虫を噛んだような表情を浮かべる。 「癖?」 「癖と言う言い方が正しいのか知らねえけど。少なくとも、秘密主義、単独行動主義のやつだった。時折突拍子もないことを言って、こっちを混乱させる。でも最後の最後にはあいつの言うことが凄く重要だと気がつくわけだ。 あと、かなりの博識だった。化学兵器の仕組みも哲学者の言葉も本当に良く知ってて、いつも昔の偉人の言葉や過去の事件のことを引用したりしてた。 俺は学がなかったから、正直ついていけなくてな。その奥歯にものの挟まった言い方にいらいらしたもんだよ。」 「でも、それは先々代の人でしょう?今は別の人なんだから関係ないんじゃ?」  僕の言葉に爺様が言葉を挟む。 「言ってなかったかいな。菖蒲様は4人の哨戒士の中で唯一、必ず先代までの記憶を持って生まれてくる存在や。 哨戒士と姑獲鳥の戦いについては記録が残っているが少なくとも幕末の記録からは”菖蒲が敵の顔を記憶していた”と記載があるからな。」  すると健が顔をしかめた。 「じゃあなんで、まだ菖蒲っていう人は見つかってないんですか?記憶があるならすぐ名乗り出ればいいのに。」  そのもっともな疑問に爽矢さんが肩を竦めた。 「さあな。あいつの考えていることはよくわからん。言っただろう?単独行動が好きなやつなんだよ。もしかしたら何か考えがあって名乗り出ていないのかもな。」 「日本近代化以降、哨戒士が見つかった順番が記されているが菖蒲様は幾度か記憶を持ちながらも、あえて身を隠して途中で名乗り出ていることがあるんや。やけど姑獲鳥が動き出す前にはいつも見つかっている。今回ももう少ししたら名乗り出てくるんちゃうんかな。」  爺様もそう付け加えるが、僕と健は納得できない。    そんな僕らの間で、早苗さんは不安げに目を泳がせていた。
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