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「そんなの、あるんですか?僕聞いたこともないですけど。」
すると、爽矢さんは片方の眉を少し上げて、
「知らんかっかたか?あれだよ。屋敷の隅にあるだろう?缺けが。」
「缺け?」
「屋敷の東北側の塀だけ、凹んでるだろ?」
「あ、あー。」
そういえばそうだ。なぜか屋敷の塀の1つだけが角を凹ませて、そこにできたスペースに白い石が敷き詰められている。
そういえば昔、爺様が「あの場所は清めていなければならない」と言っていた。
「あれは鬼門の角を取ることで、鬼の力を弱らせる呪いでな。御所にも同じようなのがある。猿が辻ってやつだ。
御所のには厄除けとして猿の彫刻が祀られている。それに倣ったのか、あの缺けの下には猿壺と呼ばれる、猿の模様が描かれた瀬戸壺が埋まっていて、その中に歴代の哨戒士の骨が入っている。」
爽矢さんが事も無げに言い放った台詞に僕と健は息を呑んだ。人の骨を家の敷地内に埋めているなんて。しかもそれをずっと知らなかったなんて。
ただただショックだった。そんなことをしている御剣家に嫌気がさす。
そんな僕らの様子を見て、爽矢さんは気まずそうに舌打ちをした。
「あー。まあ、なんていうかな。うん。あれだ。古き悪しき風習ってやつだ。気にすんな。
骨といっても一部だしな。墓に入らなかったものを入れるんだと。」
「へえ…。」
たとえ一部でもいい趣味とは言えない気がする。歴代の哨戒士は死んだ後もそんな風に自分の遺体が使われることをわかっていたのか――。わかっていたならどんな気持ちだったんだろう?
少し前を歩く爽矢さんの顔を伺う。何を思っているのかいまいちつかみにくい――。
「じゃあ、爽矢さんの骨も入っているんですか?」
僕の質問に、爽矢さんは苦笑を零した。
「先々代の九頭龍ってことか?入ってないんじゃないか?俺の骨は拾えなかったと思うぞ。」
「拾えなかった?どうして。」
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