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“我が真名はお主の中にある。
耳を澄ませ。奴らが来るぞ。多大なる犠牲が再び払われ、輪廻の輪より外れし御霊の業がお主を蝕むであろう。
気をつけろ。良いな、気をつけろ。”
白兎がそっと頭を垂れる。
ーーどういう意味だ。
そう尋ねようと手を伸ばすが次の瞬間にはその姿はどこにもなくなっていた。
一体全体どこにいったというのかと、辺りを見回すと眉根を寄せて訝しげな表情を作った建と目が合った。
つい先程まで全く動いていなかったはずなのに。そういえば木々のざわめきも、観光客が砂利を踏む音も戻ってきている。
さっきのは白夢中か何かか?
否、そんなはずはない。あんなにリアルな夢があってたまるか。
じゃあなんだ?幻?
一体自分はどうしてしまったというのか。
「高兄?」
健がそっと声を掛けてくる。僕はすぐに返答ができなかった。
まるで自分だけがどこか違う空間に行って帰ってきたかのような気がする。
ゆっくりと爽矢さんの方を振り向くと爽矢さんも健と同じような顔でこっちを見ている。
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