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解散し、1年生がある程度後片付けをする中、高跳びの用具は自分がやると言い張り、人がいなくなるのを待つ。夏とはいえ、夕暮れになると京都市の北のほうにあるこの学校では辺りは少し薄暗くなる。グラウンドで練習していたサッカー部のメンバーがみんな更衣室に入ったころを見計らって、私は試してみたいことを始めた。
どこまで跳べるか――。
女子の高跳びの総体最高記録は1m83。だが予選大会の時の私はそのはるか上を跳んでいた。バーを2mに合わせる。周囲の目がないか確認しながらスタート位置に就く。集中してバーをじっと見る。ゆっくりと走り出し、踏切位置で身体をひねり、地面を思い切り踏んだ。その瞬間、あの時と同じように驚くほど軽やかに自分の身体が浮き上がった。
空が近い――。星が近い。
あっさりと2mのバーを越えてしまった。バーは足に触れもしなかった。その事実を認識すると、途端に心臓の鼓動が高まるのがわかった。
ああ――自分は本当に化け物じゃないか。こんな跳び方ができるなんて。そのことにショックを受けるが、それ以上に高揚感も感じていた。
どこまで跳べるんだろう。どんなことができるんだろう。
確か男子の世界記録は2m40くらいだった。超えられるだろうか。否、余裕だろう。
ただ学校のバーでは2m10が限界だった。どうしようか。そうだ、土台を高くしてしまおう。そう考え付き、バーの下に、ブロックをかさねた。これで30㎝は追加できただろう。
その時、私は夢中になっていた。まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように。
周囲への注意を怠ったのだ。
夜の闇の中、まっすぐバーに向かって走り、跳び上がった。
気持ちいい――。
高揚感が全身を走った。
その時だった。校舎の中に一つ明かりがついた部屋が見えた。その教室に人影が一つ確かにあった。その人影は窓際に立っている。
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