第八幕

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「確かにな、俺も昔疑問に思い、菖蒲本人に聞いたことがある。すると、“人間というのはほとんど目に頼って生きている。だからだろう”とさ。目の力そのものが記憶と結びつきやすいみたいだな。性別についても“前の記憶持っているのに性別がコロコロ変わったらややこしいだろう”とさ。」 「はあ。」  わかるようなわからないような説明だな。  つまりはっきり理由はわからないってことか。  そんな僕と同じように、首を傾げ先ほどの話を聞いている人がいた。早苗さんだ。  早苗さんは納得がいかないという表情だ。それに爽矢さんも気がついた。 「どうした?」 「あ、いえ。」  なんでもないと首を横に振るが、以前何か引っかかることがあると言う顔だ。爺様が優しく声をかける。 「なんや気になることがあるんか?言うてみ。」  その声に押されて、しばらく逡巡してから早苗さんはゆっくりと口を開いた。 「あの、わたしの学校に1人、ちょっと気になる人がおって。その人、神薙家の人やったんです。だから、その。もしかしてその人が菖蒲なんやゃないかって、思っとったんです。」 「ほう。」 「ただその人、男の人やったから。さっきの話がホンマなら私の勘違いやったんかなって。」 「せやけど納得いってへんって顔やな。なんかあるんか?」  爺様が諭すように尋ねた。爽矢さんも畳み掛ける。 「そもそも、なんでそいつが気になったんだ?」 「それはーー。私が前に学校で高跳びしてた時に、その様子を遠い校舎から見てたかもしれないんです。しかも見られたと思って探しに走った私を避けるようなこともしていてーー。 何かあるんじゃないかって気になって、その日から彼のことをよく観察してみたんです。彼は凄く賢い人みたいで、物静かで。だから結構ファンも多くてーー。でもそれが逆に、気になりだすと不自然に感じたんです。 年齢不相応っていうかーー。まるで高校生の中に大学生か社会人が混じっているみたいで。」  部屋の中の皆が彼女の言葉に耳をそばだてている。  早苗さんは緊張しているのか、少し声を震わせながらも、頑張って話を続ける。
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