第八幕

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「あとは、姑獲鳥の動きやな。」  爺様が視線を向けた60歳手前くらいの男性が空咳をして脇から何かを取り出した。他幹部に比べてなんというかーーよそ向けという感じのする格好をしている。正直あまり見覚えはない。  彼は「これは内密に願う」と前置きしたうえで 「これは機密なのですが、今防衛庁に公安調査庁からある情報が入っとります。中東のスパイが東南アジアの島に上陸したとーー。しかしその後の足取りが追えなくなったようです。」  彼の言葉に皆がざわめく。 「おい、その島って…。」 「ええ、先代様が命を懸けて瑠璃姫を封じたあの島です。つまり忍び込んだスパイはすでに殺されている、もしくは瑠璃姫の供物にするために生け捕りにされているでしょうな。」  ここの幹部にしては珍しい綺麗な東京弁で告げられたその内容に他の幹部が顔を見合わせる。瑠璃とは確か、姑獲鳥の名前ではなかったかーー。  姑獲鳥はコロニー単位で行動しており、瑠璃と茜が大きなコロニーを作っていると以前聞いた記憶がある。 「もしお前の懸念の通りなら、やばいでかなり。」  爺様か呻くように声をあげ眉間に深い皺を刻んだ。  話についていけない。僕も健も早苗さんも視線で説明を求めた。 「アメリカの国防省やCIAはもちろんこのこと、つかんどるんやろうなーー。」  志鶴さんの質問に、先ほどの男性は頷く。 「ええ、その上で次の手を考えているようです。あの島は領土問題で揺れる場所。忍び込んだスパイの母国は今のところあの島の所有権を主張してはいませんがーー。 米国と敵対する彼の国と立場としてはやはり、米国と同盟関係にある国々に島を渡したくないでしょう。できれば領有権主張国同士で喧嘩して共倒れになればいいと思っている。適当に島を引っ掻き回して火薬を撒くつもりだった。それがまんまと己の遺体を島に残すことになった。 彼の国としては歯ぎしりしたくなる状況。 一方の米国も、このスパイの死体を持て余している。今あの島の領有権を主張する国々は一部例外を除き、ほとんどが同じ東南アジア系。外部にあの島を狙う敵がいると知れば人間の心情としては当然ーー。」 「東南アジアは団結する。」  爽矢さんが後の言葉を引き継ぐ。男性はその通りと彼の言葉を肯定した。 「そうなると困るんですよ。米国にとっては非常に都合が悪い。」 「何故です?アメリカを攻撃しなければ別にどの国が戦争しても構わへんのでは?」  貴司さんが首をひねる。その言葉を雄一さんが否定する。 「いいや、確かあの島油か何かが出るはずです。あまり中東との関係が良好とは言えない今の米国としては保険にあの島の利権には関わりたいはずーー。 うまくスパイの死体を世間に出して“彼の国は国際ルールを無視している”とアピールできれば大義名分掲げて領有権問題でもめる国々を纏めて敵国を1つ潰せるかも知れない。そして領有権主張国に恩を売り、中東のパイプラインも抑えられるーー。 しかし団結の仕方が変な方向に行けばーー。」 「中国が出てくる。アメリカが求める立場をそっくりそのまま取られる可能性もある。」  最後には話を持ってきた男が締めくくった。  国際情勢に疎い僕には正直言っていることの半分も分からなかった。そして横に並ぶ健と早苗さんは完全にエンスト状態だ。健はかろうじて聞いていると言った顔を見せているが多分何も入っていない。
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