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大人たちは子どもらが話に置いてけぼりになっている事に気がつかず話を進める。
鋭い口調で、爺様が男性に
「そのスパイ潜入騒ぎが起こってどのくらいや?」
「少なくとも2ヶ月ほど経つかと。
我らの常識から言えばその間姑獲鳥らがその男を食べていない保証はないので、そもそも遺体も何も見つからないかもしれません。
絵に描いた餅を奪い合っている状況ですな。
しかし姑獲鳥の存在は米国も彼の国も中国も把握してませんし、あの島からスパイが出た痕跡がない以上は遺体であれ生体であれ島内に身体はあると思っているようで。」
「厄介やな。瑠璃姫のコロニーはそろそろ動き出せる時期に来ている。その時期にあの島に大国の人間が入り込むのは正直まずい。」
「下手すりゃ権力持ってる軍のお偉いさんに成り代わられる。先代の時の二の舞やな。」
貴司さんか呻いた。先代の時に何があったのか知らない僕にとっては何の話をしているのかさっぱりだ。
するとそれまで黙っていた女性ーー春子さんが口を開いたのだ。
「ーー絵に描いた餅を食らおうとしとるんは我らも同じでしょう。そもそもこのスパイ、ホンマに人間やったんですか?」
その指摘に、みんなが彼女に目を向けた。
「つまり、そのスパイそのものが衛士の御子やったと?」
貴司さんの質問に彼女は首をすくめた。
「そう断言してるわけやありまへんけど。可能性については検討してええんちゃうかと。」
“衛士の御子”?なんだそれは。健が視線を僕に送って説明を求めていたが、僕にもわからない。なんだ?それは。
すると、爽矢さんが春子さんの発言をすぐに否定した。
「それは無い。衛士の御子はまだ覚醒していない主人の元を離れることはできない。もし前の持ってきた情報が真実なら、そのスパイは島に上陸したんだろ?つまり今までは外にいたってことだ。あいつらの生態を考えれば休眠中の主人からそんなに離れていられない筈だ。」
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