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「それがいつのまにか、儂の方が歳重ねてしもうたわ。もうあんたが生きとった時間合算してもかなわへんくらいにな。」
挑発するような忠清さんの口調に、爽矢さんの右の口角がピクピクと震える。
「言うじゃねえか、全然俺の指導についてこれなかったくせに。」
それに対して、忠清さんはわざとらしく首を左右に振って溜息を吐いた。
「いやいや、あれはあんたの指導の仕方やで。見かねた菖蒲様が間に入ってくださったんや。なあ、修二郎?」
「なあって言われても、儂はそんときまだ小さかったからなあ。よお覚えてへんのです。」
「何言うてるんや。あんまりにも巌先生の教え方が酷いからて、何人も辞めそうになったんを菖蒲様が拾ってくれはったんや。」
まるで同窓生のように気軽に話す3人。爽矢さんの見た目がかなり浮いてる。
巌先生?そういえば先ほどの幹部会でも彼は爽矢さんのことをそう呼んでいた。
「巌ってのは先々代の俺の字だよ。」
「え。」
字ーーつまり諱と対をなす俗名。先々代の九頭龍だった人の名前。戦前の頃だから仕方ないけど、今の爽矢さんって名前とかけ離れた厳しい名前だ。
「見た目ももうちょっと顎が四角くてな。眉毛も太うて。」
「いや、それあの当時の男みんなに言えるからな。」
溜息をつき、爽矢さんは腕を組んだ。
「で、態々老体に鞭打って来て、それだけ言いに来た訳じゃあねえだろ。」
「いやあ。まあ。高天殿におうときたかったんはほんまやで。ただ噂に菖蒲様がまだ見つかっとらん聞いてな。これまでに無いことや。少なくとも儂の知っとる範囲やと。
正式な記録はお前が持っとるからな。ついでに聞こう思おてな。」
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