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爺様にそう話しかける忠清さん。爺様は神妙に頷いた。
「記録上も菖蒲がここまで長く姿を現さんかったことは無いようですわ。あの方は賢い。転生されてはるなら、何か理由があって隠れてはるんやろうけど。」
「理由が掴めへんな。もし話題になった桔梗ちゅう子どもが菖蒲様ならなおのこと。近くに袂がおるんやし。」
「袂がいるから…かもしれませんが。」
2人のやりとりに別のもっと若い声が口を挟んだ。健也さんだ。後ろに瀬奈さんも控えている。
「なんや健也やないか。なんでそう思うんや?」
忠清さんと健也さんも知り合いなのか…。この人顔が広いんだな。そんなことを思って惚けている僕と違って健也さんは真剣な顔だ。
「袂は、あの件があってから戦うことに消極的です。人間を守ることの意味を見出せないでいる。そんな袂の意思を汲めば、なかなか動きが取りづらいのかも。」
しかし爽矢さんがそれを鼻で笑って一蹴した。
「ありえない。」
「儂も同意見やな。」
爺様が頷いた。忠清さんも“ないない”と手を振っている。
「あのアマはなんだかんだと頑固だ。部下の意見は聞き入れるが、感情的な面に寄り添って判断を鈍らせるほどアホじゃねえ。」
「あの方は先々代の頃、部下の反対を押し切って出征したんやで?今更袂の意見で姿眩ませる訳ないわ。」
「健也、なんでそう思う?お前もあの人のこと知っとるやろ。」
爺様が優しい口調で健也さんに話しかけた。
爺様は、駄々をこねる僕を諭す時いつもこの喋り方だったことを急に思い出した。
「…袂が、桔梗のことを妙に隠している気がするのです。」
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