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「なんでそんな言い方しかしないんだ、お前は。」
健也さんの後ろに立っていた瀬奈さんがたしなめる。爽矢さんはわかっていると乱暴に言い、頭をかいた。しかし、思いは抑えられないらしい。
「ああ、あの女!本当にイラっとくる!」
「あんたホンマに苦手やな、菖蒲様のこと。」
忠清さんがあきれた声を漏らす。
「当たり前だ。あの嫌味な言い回しを思い出すだけで腹が立つ!」
本当に苦手なんだろうということがよくわかる。過去に一体何があったんだろう?
「お二人、昔に何かあったんですか?」
そう尋ねると爺様は苦笑で返し、忠清さんはいたずらっ子のようにきらきらした目で顔を近づけてきた。
「ええ質問やな。巌先生――やのうて九頭龍殿は昔菖蒲様に喧嘩を売って…。」
「違うわ!売ってきたのは向こう!」
「あんたが弟子に逃げられたから、たしなめるために声かけたんに、あんたが聞かへんからやろ。」
「聞かないから?それで?」
僕が先を促すと、爽矢さんは顔を背けて舌打ちをした。忠清さんが代わりに話してくれる。
「菖蒲様はこういわはった。“君主の賢明たるかを評価する最善の方法は周囲にどのようなものを置いているかだ。しかし周りに誰も置くことのできぬものはいかに判断すべきであるか、ぜひ意見を聞かせてほしい”。」
爽矢さんがさっきより大きな舌打ちをして瀬奈さんに小突かれる。
「ええっと…。」
どういう意味だろうかと言葉を何度かリフレインさせ言葉をかみ砕く。
そんな僕がおかしかったのか爺様が笑って説明してくれる。
「つまりや、”上に立つ人間の良しあしは部下を見ればわかるけど、そもそも部下に逃げられてるお前は評価に値しない”。そういうことや。」
「ああ…。」
確かにそれは腹が立つ。しかもそんな小難しい言い方されれば、言い返す前に一旦言葉の意味を考えてしまう。真意がわかればそれはそれは腹が立つだろう。
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