第八幕

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「死んだ人間のことをとやかく言うものじゃないよ。」  健也さんが眉を顰めて爽矢さんに注意する。  しかし爽矢さんは聞き流すのみだ。 「ふん。」 「まあ、たしかに。癖のある方やったな。それ故に菖蒲様が助け船を幾度も出された。幾度も行動を諌め、根気よく説教しとったなぁ。 あの個人主義者の菖蒲様にあそこまで口出させる言うんもすごいことやけど。」 「そう、なんですか?」 「まあ、それも含めて、大まかな過去のことは知っておくとええ。特に歴代高天のことは。御剣家の当主には、御剣家由来伝含め、数多ある戦いの記録を自由に読む権利を与えられとる。まだ当主ではないが、近々そうなるのであれば知っておけ。」  忠清さんの言葉に爺様は少し眉根を寄せて考える様子を見せた。  そして僕の顔をじっと見る。  思わず背筋が伸びて、気をつけの姿勢になる。爺様は深く長い溜息をつき、 「まだ早いんやないかと思っとたんやけどな。それにこういうんは、儂より菖蒲様の方がうまく伝えられるやろうし。」 「そりゃ逃げやで、修二郎。今はお前が当主や。」  忠清さんの言葉に、少し悲しげに微笑み頷く爺様。  なんだろう、すごく罪悪感がこみ上げてる。 「わかりました。したら、高天。着替えて儂の書斎にきい。前の高天のこと、儂のわかる範囲で教えたるから。」 「お前らはどうする?」  爽矢さんが健と早苗さんに声をかける。二人はお互いに顔を見合わせた。 「僕は、知りたいです。」 「私も…。」 「そうか、じゃあお前らも早く着替え済ませろ。」  そう言ってスタスタ先を行く爽矢さん。その後ろ姿に苦笑いを零し、 「ちょいと揶揄いすぎたかもしれへんな。いやぁ、桑原桑原。」  と忠清さん。爺様が彼に、 「一緒に来はりますか?」  と尋ねるが首を横に振った。 「いや、すまへんが今日は遠慮させてもらうわ 。この後病院の定期受診でな。 高天殿。これ儂のケータイの番号や。聞きたいことあったまた電話してきい。」  忠清さんは懐からメモを取り出し、番号を記すとそれを僕に渡した。 「あ、ありがとうございます。」  僕の謝意に微笑みを返すと、彼はまた帽子を被って杖をつきながら帰っていった。
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