第八幕

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 着物から普段着に着替えて、爺様の書斎に行くと、爺様もすでに普段の着流しに着替えていた。爽矢さんも座っている。彼の手元には以前見せてもらった大刀が、刃の部分に革を被せた状態でおかれている。すぐ後ろに瀬奈さんが、幹部会の時の衣装のままに座っていた。 「私も、次代の幹部候補としてお聞かせいただきたいと思い、ご当主にお願いしました。」  瀬奈さんが居ることに驚いた僕に、瀬奈さんが説明してくれる。相変わらず鋭い視線だ。  机上には少し古い巻物がいくつかと、革張りの大きな本が3冊ほど積み重なっている。あれが記録だろうか?  僕と健はおずおずと爺様の前に座った。少ししてから早苗さんが慌てて入室した。  遅れたことを謝罪する彼女に、爺様はいつものように柔和で少しもの悲しげな顔を向け、「ええよええよ。」と声をかける。  これで全員だろうか。爺様が深く息を吐いて話し始めた。 「さてーー。何から話すべきか。まずはおさらいやな。 我ら、御剣家は応仁の乱の頃、京の都の端に住み、京極高天と名乗っとった。 その当時、洛外に住むある貴族が飼っていた生き物が姑獲鳥(うぶめ)。 貴族の名前は藤堂時宗。若くして家督を継ぎ、政にはあまり興味のない男やったらしい。 ただ他に後継もなく、仕方なしとはいえ、まじめに仕事をしとった。 そんな中、大陸から来た行商人が珍しいものを売りてけてきた。 それが姑獲鳥やーー。 その瞳の色から瑪瑙(めのう)と呼ばれた姫さんは、老いることなく、若い女子の姿で数年、屋敷で生きた。 その内、瑪瑙は屋敷の下男や下女を夜な夜な密かに食べるようになった。ついには藤堂時宗を殺害し屋敷に火を放ち逃走。役に立たへん室町幕府の代わりに、朝廷が密かに京極高天に命じて姑獲鳥を討伐させた。 瑪瑙は最後まで抵抗したが結局死んだ。しかしや。 瑪瑙には子どもがおった。 瑪瑙は応仁の乱の混乱に乗じてどこぞに子どもを産み落としとった。 今、儂らが相手にしとるのはその子孫やと言われとる。高天は自分の式神が、姑獲鳥を見張り続けることができるように(まじな)いをかけた。その結果、哨戒士と呼ばれるものが御剣と神薙の家に生まれるようなった。」
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