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「師匠ーー先々代の菖蒲様は高天に責任感と謙虚さを求めたが、その時の御剣家では高天を神格化して過度に崇め奉る傾向が強かったんや。
師匠はそれに反して高天に“思い上がるな”と教育しとったんやが、それが逆に彼の方の神経を逆撫でして、二人の折り合いは悪かった。」
爽矢さんが言葉を挟む。
「あいつは高天に期待をしなくなり、代わりに人材育成に力を入れた。他の哨戒士にもそれを求めーー俺と衝突した。
翔子ーー当時の胡蝶は菖蒲の言うことによく理解を示し、俺をよく諭した。」
爺様が右端の女性を指差す。
「これが先々代の胡蝶殿や。翔子という名前やった。穏やかで、前の代の記憶も持ってはったから、菖蒲様とは仲が良かったんや。
そして、もう一人の、この口元隠しとるんが菖蒲様。儂の師匠や。」
爺様が指すその女性を、改めてしっかりと見る。
若い。
10代後半だろうか?顔が半分隠れているのでよくわからないが、少なくとも胡蝶だと言う女性よりは若い。
そして目つきが鋭い。光の加減なのか、右目と左目で色の濃さが違う。左目の方が濃い。
鋭い視線だが、こちらを見ていない。少し斜めの方を見ている。それが無性にこちらの不安を煽る。
「この人がーー。」
すごく綺麗なわけでもないのに、こんなにも人を惹きつける人がいるのか。
じっと見つめていると爺様の指先が違う人物に動く。
「九頭龍はこの大刀持っとる人や。そんで菖蒲様の横に立っとる坊主が菊端ーー。見た目の通りの厳しい人でなあ。弟子にも堅物が多かったみたいやな。」
だが僕は、その女性から目を離せなかった。爺様の説明も余り頭に入ら無い。
この、少し斜めに向けられた瞳の先に一体何が見えるのだろう?気になって仕方がなかった。
この気持ちはなんだろう?
胸が妙にざわついて、冷や汗が溢れ出す。
この人の視線がこちらを向いた時、何か恐ろしいことが起きる。そんな気がする。
その時頭の中に聞き覚えのある声が出て響いた。
ーー知っておろう。これは呪いだ。我々には各々の役割がある。貴様は貴様自身の責めに任ずるしかないのだ。
「え?」
思わず後ろを振り返るが誰もいない。くるくると頭を回す僕の様子を他の面々は不思議そうに見つめている。
「なんや?」
爺様がそう問うが、僕は苦笑してごまかした。
まただ。また聞こえないはずの声が聞こえた。前にもあった。僕は頭がおかしくなったのか?顳顬を軽く抑える。
もうあの声は聞こえなくなった。そして再び写真を見ても、さっきのような不安はもう消えていた。
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