第八幕

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 そんな僕の様子に二人は気づいていないのか、話を続ける。 「姑獲鳥はコロニーを率いる始祖とその護衛をする衛士(えじ)御子(みこ)で行動する。 休眠するのは始祖のみだが、始祖が休眠すると、衛士の御子はその始祖を守るために、休眠した始祖から離れられなくなる。 休眠と言っても、すぐに完全な眠りにつくわけじゃない。しばらくは衛士の御子も自由に動ける。 先々代の時はその期間を使って、衛士の御子らがかなり暴れた。東京大空襲や沖縄戦なんかまさにそれだな。」  爽矢さんが資料の中から何枚か写真を取り出した。  それを見た途端、早苗さんは口を押さえ、健は顔を背けた。僕も思わずのけぞった。瀬奈さんは黙って見つめている。  そこに写っていたのは恐らく人間だった“もの”。テレビなどでたまに見る日本兵の格好をした肉の塊だ。  顔の皮膚は剥がされ、肉と骨らしいものが見える。腕は奇妙な方向に捩れ、こちらもまばらに骨が見える。腹部からは内臓が飛び出ている。  これは何だ?  言葉にして爽矢さんに聞こうとしたが嘔気が邪魔して声が出ない。、 「これは、御剣家で槍術を学んでた男だよ。俺が教えた。細かな技術は菖蒲が指導したが、そのあとは俺と手合わせして実践を学んでた。 どこで撮られたものなのか、わからんが。アメリカの兵士が撮った写真の中にあった。米兵は新しい爆弾の威力の凄まじさを象徴すると思っていたようだが、この傷は明らかに食いかけだ。 時期的に、おそらく衛士の御子にやられたんだ。 あとこれ。」  爽矢さんが次にこちらに差し出してきたのは彫の深い顔立ちをした巻き毛の男の写真だ。目を爛々と輝かせこちらを見ている。その写真の次には、恐らく同じ男が写っているピンボケした写真を手渡された。 「これは?」 「御剣家の奴で、東南アジア戦線に行かされた奴の遺品のカメラから見つかったフィルムを現像した。 ここに写っている外国人。 こいつは俺を殺した姑獲鳥だよ。これは瑠璃の衛士の御子の一人だ。」 「「えーー。」」  僕と健は思わず声を揃えた。写真をもう一度見る。写真から見える顔立ちから、インドとかアラブ系の人に見える。モノクロなので分かりにくいが、肌の色も濃い。  でもこの写真を見る限り、彼はただの人間にしか見えない。以前に爺様に見せてもらった絵とはかけ離れた姿だ。 「言うたやろ、あの絵はかなり誇張されたもんやって。実際はほとんど人と変わらへん見目や。」 「東南アジア戦線にいた時にな、見つけた。こいつは戦闘狂の気があって、すぐに俺を殺そうとした。応戦したが負けてな。 他にも姿が確認されている奴がいるが、奴らは基本的には人間の姿をしている。」  そう言いながら爽矢さんがもう一枚写真を出してきた。今までの写真と違い、それはなにかの資料写真をコピーしたようなものだった。写っているのは欧米人だ。軍服を着て、首元にはなにかの紋章が付いている。 「ハインリヒ・ミュラー。人間に混じり、ドイツの政治を影で操った姑獲鳥だ。他にも色々いた。それを一つ一つ、暗殺やらなんやらで殺して、表舞台から姿を消させていた。日本の軍人の中にも紛れ込んでいてな、本当に厄介だ。」 「先代の頃はもっと厄介やった。暴動やら騒動の主導者が行政側でなく、民衆に移ったから、その騒ぎを起こしとる姑獲鳥を見つけるんも一苦労やったんや。」
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