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「さあ、時間ももう遅い。そろそろみんな帰りい。また続きは今度にしよ。」
見ると時計の針は、6時を回っていた。いつのまにか時間が経過していた。
「そういや高天、お前なんか確認したいことかなんかあるってメールでいってたろ。なんだ?」
爽矢さんに聞かれて、メールの件を思い出した。
ああそうだった。修学旅行のことを聞かないといけないのだった。
「ええ。僕今度修学旅行があるんです。オーストラリアに二週間近く。」
「オーストラリア?てか長!私学は違うねえ。」
爽矢さんが口を挟む。
「爽矢さん、公立でしたっけ?」
「おう、だから修学旅行って言えば、スキー研修だったぞ。瀬奈も早苗もだろう?」
「うん。」
「そうですね。」
そうか、京都の公立は修学旅行は長野にスキーだと誰かに聞いたことがあったな。亮介からすればそちらの方がいいのだろうな。
「行ってもいいんじゃね?まだ猶予はあるだろう?」
爽矢さんの言葉に爺様は天を仰ぎながらうーんと唸った。
「そうやなあ。普通の高校生活も、満喫せなあかんわなあ。」
何か引っかかる物言いに、爽矢さんが突っ込む。
「なんだよ?」
「いや、今日報告受けたあの島のことがちょい気がかりでなあ。いつもの通りことが進めばあと1年以上は姑獲鳥らの活動まで時間があるんやけど。」
「じゃあ高天は日本にいてもらった方がいいか?」
「いや、まあええやろ。そん代わり言うたらあれやけど、3人とも武術を各道場行って習いだしい。そろそろそう言う準備、必要やろ。」
爺様の言葉に爽矢さんは頷いた。
瀬奈さんと目配せを交わして、
「そうだな。じゃあ、他の道場の奴らにも話つけて誰の道場に誰が習いに行くか決めるから、また連絡するわ。早苗はとりあえず引き続き俺んところで基礎を学べ。健也さん、教え方うまいし、手合わせは俺とやる方がいいからな。」
「はい。」
えっ。早苗さん、健也さんと爽矢さんの道場にいってるの?
初耳だ。否、そういえば力のコントロール方法教えるって爽矢さんいってたかーー。
「健は出来れば菖蒲様の教えを受け取るもんがええやろ。儂からも連絡入れとくわ。」
「ああ。てか修二郎殿が教えてやればいいだろ?」
爽矢さんにそう言われ、爺様は苦笑を漏らした。
「儂は教えんの下手やし、そこまでの使い手でもあらへんしな。」
困った顔で微笑む爺様を爽矢さんが顔をしかめて見ている。
「あんまり他の幹部の顔を立てすぎるなよ。統率が取れなくなるぞ。」
爽矢さんが厳しい表情で投げかけた言葉に爺様は肩を竦めた。
「ついさっきによう似たこと言われたなあ。わこうとる。気をつこうとる訳やない。儂は儂なりに己の身の振り方をよう把握しとるつもりや。」
「ならいいが。」
素っ気なく首を振る爽矢さんの様子に建と僕は思わず顔を見合わせた。
前から思っていたが、爺様はあまり偉ぶらない人だ。穏やかで一歩引いた態度を貫く。僕にとってそれは尊敬すべき点だけど、そうか…見る人によってはいい評価になるとも限らないのか。
でも、なんで爺様は他の幹部に気を遣っているんだろう?
湧いて出た疑問を口にすることができぬまま、僕らは解散した。そしてその日の夜には僕らがいつどこの道場で武術を習うかの予定が載ったメールが爽矢さんから届いたのだった。
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