幕間 壱

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 試験は、比叡山の山中に入り、決められた日数人目につかずに生き延びるというものやった。 「持っていっていいのは水。食べ物の持ち込みは禁じる。そこで二週間、人目に触れず、登山道にも降りず過ごせれば合格だ。ズルをしたら即失格。他所への紹介もしない。 それから、再三言うが、私は戦う術は教えん。姑獲鳥と格好良く戦いなら他を当たれ。この説明を聞いてなおかつ門下に入りたいもののみ試験を受けろ。」  儂以外にも年長者が数名その試験を受けることになった。他のものは儂を見て怪訝な顔をしていた。  うち1人が苦言を呈した。 「こんな子供が参加できるんですか?比叡山とはいえ、食べるもんもなければ死にますよ?子供では。」  その言葉に菖蒲様は僅かに眉を顰めた。 「私も本意ではないよ。だから修二郎、お前は5日で良い。5日経てば下山しろ。数は数えられるか?」 「は、はい!」 「うん、では日が昇った回数を線で石に刻んで忘れぬようにしろ。線が5本になれば参道を降りて来い。数え間違えであっても5日未満で降りてくれば失格だ。 また、私が見ていぬからとズルを働くなよ。見られていないと思っている時ほど視線を集めるものだ。気をつけなさい。これは他の面々にも言えること。 先程私が言った決まりを守らなかったものは即刻下山してもらう。入門も許さん。わかったな。」  菖蒲様は試験開始の時刻と集合場所を告げると、水を自分の分用意するよう指示してまた自室に戻ってしまった。  残された僕たちは各々準備に取り掛かりだした。  候補者の何人かが、僕を見て汚物でもそこにあるかのように顔を歪めた。 「なんでこんなガキが。」 「ええよなあ。子どもやいうだけで日数少うしてもらえて。」 「ほんまや。俺らももうちょい遅う生まれとったら有利な条件で試験受けれたんに。」  その言葉の意味を全てわかったわけやないが、敵意にあふれたものやということは嫌でもわかった。  体躯も小さく、言葉でも勝てない儂はただ唇を噛んで石のように我慢するしか出来んかった。
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