幕間 壱

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 試験の日、儂は水筒に水を入れて動きやすい格好を心がけた。帽子も持って。集合場所である日吉神社に着くと、周りもみんな、同じようなもんや。学生服を着て肩から水筒を下げて。  女の人も数人おった。不安げな顔の人、尊大な笑みを浮かべる人…いろいろやった。  しばらくして菖蒲様が現れた。彼女は上下白の胴着に漆黒の羽織姿。口元はいつものように隠している。  懐中時計を取り出し時刻を確認すると集まっているメンツの顔を見渡し、 「これで全員だな。」  僕も含め13人の人が集まっとった。前に嫌味を言ってきた人もおる。 「では始めよう。決まり事は前に説明した通り、人に見られず二週間、修二郎は5日間、この比叡山の山中で生き残ること。もちろんこれは御剣の家のものを無闇に殺すためのものではない。 私が見張りをし、命の危険があると判断すれば強制的に中止させる。 持っていっていいのは水のみ。食べ物は各自で確保しろ。 歩いていいのは山の中だ。参道は許可しない。」  どうやって見張るんだろう?  ふと疑問が頭を過ったがそれより目の前の試験への緊張が勝った。  菖蒲様の合図で試験が開始となった。  目の前に道があるのに、みんな険しい坂を登っていく。  儂も後ろをくっついて行こうとしたが、歩幅が違いすぎてとても無理や。  早々に息を切らしてへたり込んだ。  比叡山は自然豊かな山で、道を外れれば途端厳しい斜面が広がる。登れるかーー。絶望的な気持ちで上を見上げた時、かさりと葉を踏む音がした。反射的に木の影に身を隠すと男の人がこちらに来るのが見えた。  しまった。出来るだけ小さくなってやり過ごそうと息を潜めると、彼は木に引っ掛かった帽子を取って元来た道に戻っていった。  荒くなりそうな呼吸を必死に抑えて、彼の完全に姿が見えなくなってから息をついた。  そうや、これは人に見られたらあかんのや。山登るんが課題やない。  そのことだけ気にせなあかんのや。  息を整えて立ち上がる。目を凝らすが他に人影はない。生き物は木に留まっとる鴉くらいや。  ゆっくり進むんや。どこか安心して休めるところを。道から離れたところで。  舗装されていない道を歩くのは、たとえ比叡山のような低い山でもきつい。  食べ物も満足に食べれてへんのや。体は動くはずもない。しばらくしてすぐへばった。  この山の恐ろしさを舐めとった。  
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