幕間 壱

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 なんとか、岩場が見つかり、そこの影で休むことにした。水筒の蓋を開けて口をつけてふと、水のことが心配になった。  水は5日間もつのか。もたなかっならどうしよう。  食べ物は?今日の夕飯はどうしよう?  じっと息を潜めているうち、日が落ち、涼しくなってきた。腹の音も鳴る。  ふと地面を見ると、どんぐりが落ちているのが見えた。拾って殻を割り、中の実を口に入れる。不味い。とてつもない渋みが口に広がる。  しかし我慢できひんほどやない。なんとか飲み込み、水を少し口に含んだ。それ以外に食べれそうなものは目の届く範囲には見つからず、動いて食料を探しにいくのも怖いので儂は諦めて今日のところはそれで我慢することにした。  すっかり冷えた水を飲んだことで胸のほうがすうっと冷えるのを感じた。  肌を擦り寒さに耐えながら、1日目の夜を超えた。いつも以上に眠りは浅く、ほんの少しの物音で目覚める、緊張感のある夜やった。  2日目の朝になった。菖蒲様に言われた通り、1日を無事過ごした証に、岩場に一本石を使って線を引く。  不思議なことに、そうすると妙な達成感が心を支配した。  よしいける、後たった4日だ。そう思うと妙にやる気が漲るのだから不思議なものだ。寝床にした岩場から離れて朝飯を探しに出掛けた。  どんぐりを出来るだけ拾い集めて岩場に隠す。喉が乾いてまた水を一口口に含んだ。  どんぐりばかり食べるのも気が乗らない。他に食べれるものはないかと見回すとキノコがあった。とりあえず摘んでみる。  今思えば実に危険な行為。どんな毒を持っているかも分からぬものを儂は素手で触り、火も起こせないため生で食べたのだ。  幸い少々腹を下すだけで済んだが、あまりの辛さにその日の夜には持ってきた水は全て飲み切ってしまった。  結果、落ち葉の布団の上で身を横たえ自分の呼吸音を何時間も聞くこととなった。徐々に日が傾き気温が下がるのを感じる。幸運にも今日は人が来ないようだ。なんの音もないのだから。  目をつぶって痛む腹に意識を集中させる。  ドクンドクンと血が巡るのを感じる。腹に血が集まるのがわかった。その血流を聞こうとさらに集中すると、不思議と腹の脈つのが閉じたまぶたの裏側に見えるような気がした。  しばらくして下痢で軽い脱水症状を引き起こした儂は空になった水筒を無駄に何度も振った。だが金の小槌じゃあるまいし、何度ふってももうなにも出ない。日も出てきたので、腹の痛みが治るのを待ち、水を探しにいくこととした。  比叡山にも水場はある。寺や神社のあるところに行けば良い。  しかしそれは規則違反になるし、何よりまだ、七つの儂にはそんなことは考え付かなんだ。  ひたすら水を探して歩き回ると、木の根の間に雨水が溜まっているのが見えた。慌てて駆け寄り、口をつける。泥臭いが贅沢は言えない。慌てて水筒に水を汲んだ。  息をつき後ろを振り返ると、すでに元来た道を見失っていた。    どないしよう。元の岩場に集めたどんぐりが置いてあるし、何より慣れない山で野宿している今、あの岩陰が自分にとっての安全地帯なんや。そこから離れたというだけで不安が心を支配した。  パニックになった儂は無闇に山の中を走りますます道がわからんくなってしもうた。  どないしたらええんやと頭を抱えるが答えは出ない。自分の後ろでカーカーと鳴く鴉にすら怯えて情けない様や。  その日はそのまま日が暮れてしもうて、しゃあなし、大きな木のウロに隠れて寝ることにした。
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