幕間 壱

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 なんだこれは。あの男が寺から出てすぐに、彼女はやってきた。彼女は誰だ。  あの鳥たちの動きはなんだ。  口に手を当て息を殺す。しかしその刹那に、自分の頭上に影がさした。 「え…。」  恐る恐る顔をあげるとさっきの女性が儂を見下ろし立っていた。 「あ…。」  女性は変わらず淡々と言葉を紡ぐ。 「修二郎だな。お主も下りろ。菖蒲様はお前に試験通過は不可能と判断した。このままでは貴様は死ぬ。」 「死んでへん。まだ…。」 「阿呆め、死んだら手遅れだ。故に私が貴様に下山を促しに来た。」  そういって手を差し伸べる彼女。その掌をじっと見る。  この疲れ切った身体にその提案はとても魅力的だった。  でもだめだ。そうしたら門下には入れない。それは絶対避けねばならない。  儂は彼女の手を払い落とした。  そのガラス玉のような目が驚きで僅かに見開かれる。 「まだ、やらせてください。僕は死んでもええんや!やからやらせてください…。頼んます。」 「…あきらめぬと?」  その問いかけに首を縦に振ってこたえる。  彼女は瞬きもせずに儂をじっと見つめ、少し首をかしげて 「ふむ…。わかった。今のところは見逃してやるが、菖蒲様のご命令が私には第一。あの方が中止と決断されれば次はない思え。それから、この後雨が降る。機を逃すなよ(・・・・・・)。」  その口から放たれた言葉が予想外すぎて儂は一瞬呆けてしもうた。そして目を(しばた)いた次の瞬間には彼女の姿はもうなかったのだ。 「なんや…あれ。」  呆然とした儂の口から落ちたその問には誰も答えはくれへんかった。
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