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もちろん、その当時はそこまでしっかり考えてたわけやないが、どうしてもあの男たちの会話が頭から離れず、儂は結局その日は下山をせんかった。
それから数日間は木の実と山菜を口にして生活した。
儂は木のうろを拠点にして動くように心がけた。またいつ雨が降っても水を逃さないようにくぼんだ石などをその近くにならべ、木の実を集めた。
遠出するときは白い石を目印においてそれをたどって戻った。
ひもじさが日に日に身を蝕んでいくが、足は何とか動いた。
時折道から外れて山に入る人間の目に触れないように樹上に素早く上る技術もいつの間にか身に着けた。
ほとんど人の言葉を聞かずに過ごすので言葉を忘れてしまいそうになる。
手持ち無沙汰になると目につくものの名前を唱えて気を紛らわせた。
だが8日目の朝を超えたところから少し森の様子が変わってきた。
試験を受けるほかの人々の姿を目にするようになった。
何のためか――他の奴らが食べ物を持っていないかを探っている奴、ただ思考力が落ちてさまよっている奴のどちらもおる。
儂の寝床にやってきたんは前者のほうやった。
食えるもんを探すために少し遠くに歩き、戻ってきたときや――寝床のうろに入る学生姿が見えた。
反射的に隠れた。
男は儂が戻ってきたことに気が付かないのか、ごそごそと中を探って、置いていた木の実と水をもって出てきた。
思わず声を上げて彼を止めようとしたが、そんな度胸もなく、見過ごすことになった。
折角集めた食料が根こそぎ盗られて、儂は再び木の実と山菜を探さねばならんくなった。
その次の日も、今度は窪みに貯めていた水を盗られた。
儂は場所を移動することにした。
少し坂になっている獣道脇の影に。坂が急だから、きっと大人は来れないと思い。
しかしそれが、自らの首を締めるとこととなった。
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