幕間 壱

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 下山したのは儂を入れて7人。皆ぼろぼろや。  怪我をしていた人もおって、セツと呼ばれていた女の人の治療を受けている。  暫くすると菖蒲様が現れた。すると何匹かの鳥がその前に飛んできた。菖蒲様は鳥の目をじっと見つめると、パチンと指を鳴らす。すると鳥はまた山に帰っていった。  そして菖蒲様は皆の方を振り返る。 「さて諸君。よくやった。君らの人生において最も長い二週間であったかと思う。 この試練は、限られた状況でいかに己を律せるか、そして臨機応変な対応ができるかを見せてもらった。 人は他者の目がないと思えば如何なるあくどい事でもできうる。 故に一見人の目のないこの山の中では私の決めた規則を守らぬものも続出する。 それを乗り越え、規則の範囲で行動できるかを、まずは見た。 そして秋のこの季節とはいえ、食べ物の少ないこの山でどう生き残るも見せてもらった。年長者の中には野ウサギを捌いて食べたものもいたな。 中には他のものの食べ物を奪うものもいたかと思う。」  その言葉を聞いて何人かが体をびくりと震わせた。 「責めはしない。想定内だし、規則にもそのことをするなとは無かったからな。だからこそ、他者のものに手を出すことなくこの試験を終えたものは自らを誇りなさい。」  1人2人口元を綻ばすものがいたのでおそらく彼らは自分の力だけで試験を突破したのだろう。  自分は菖蒲様とセツさんに助けられてようやく2週間切り抜けたのだ。恥ずかしいばかりだった。赤面を隠そうと地面をじっと睨む。  すると、菖蒲様が儂の名前を呼んだ。 「修二郎。」 「は、はい!」  声が上ずった…何を言われるんだろう? 「お前には当初5日間のみの試練とした。」  ゴクリと唾を飲み込み、気をつけと姿勢で後の言葉を待つ。 「だが己から他の参加者と同じ2週間の試練に切り替えた。ーーその意地、認めよう。」  その言葉を聞いて、あの目で真っ直ぐこちらを見る菖蒲様を見て、儂は胸の奥から熱いものが溢れてくるのを感じた。  認めていただいたんや。あの方に。  ずっと孤独やと思っとった自分の人生が途端、彩り豊かなものに感じられた。  涙が溢れ、嗚咽をこぼしながら礼の言葉を述べる。菖蒲様は一度頷いただけで、あとは他の合格者に声をかけていった。  あの方にとっては試験に合格したものへの労いの言葉に過ぎぬものだったのかも知れん。  やけど、儂にとっては生涯忘れられぬ言葉となった。
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