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貴司さんが菖蒲について聞こうと袂さんに連絡を取ってくれた。しかし、袂さんの返事は冷めたもので、「あの子が哨戒士とは思えぬ」とすげなく言い返されたようだ。それどころか逆に「あとは誰が見つかっていないのだ」と問い詰められ菖蒲がまだだと伝えたことで、袂さんはさらに「ならば男の桔梗は関係ない」とこちらの要求を突っぱねた。
それでも何とか爺様が彼を説得したことで高天である僕との面会の約束を取り付けたのだが――。
「え、シドニー?」
なんと彼は習い事の大会でシドニーとアデレードに夏休みに訪問するとのことだ。
僕が剣術道場で基礎稽古を受けている合間に爺様が知らせてくれた。
「シドニーって、あのオーストラリアの?」
「それ以外にシドニー、あるんか?儂はオーストラリアやと思おてたけど。」
僕もアデレードはともかく、他にシドニーという地名は知らない。少なくとも日本近郊にはないはずだ。
しかし随分と遠い。そんな遠方に行くのだから、帰ってくるのも先なのではないだろうか。
僕の心配は当たっていたのか、桔梗さんは夏休みが終わる直前までそちらにいるとのことだった。
つまりそれまでは会うことは難しい、そう思っていたのだがーー。
「丁度いいな。グッドタイミングじゃねえか。」
僕の稽古に付き合ってくれていた爽矢さんは笑みを浮かべる。
「え?でも、シドニーまで行っているなら帰ってくるのはかなり先かも。」
「何言ってんだ高天。お前、修学旅行でオーストラリア行くじゃんか。」
「あ!」
確かに。だけど待て。行き先はシドニーじゃなかったはず。
「僕、メルボルンに行くんですけど…。」
「メルボルンってどこや?」
爺様が首を傾げる。爽矢さんが代わりに答えた。
「確かオーストラリアの中で第二の都市くらい、大きい街じゃないか?」
その通り。シドニーに次ぐ大都市で、古い建物が多く残る。
確か、シドニーとはかなり離れているし、行くために使う空港も違う。
同じオーストラリアと言っても旅先ですぐ会えるわけはない。オーストラリアは一つの大陸が国になるような巨大な国なのだ。
しかし、爽矢さんは慌てない。
「それなら大丈夫だ。アデレードのほうはメルボルンと近い。アデレードから帰国する為にはメルボルン空港を経由する。そこで話ししてこい。」
「無茶言わないでください!僕、研修で行くんですよ。そんな自由時間あるわけないでしょ。」
僕の学校の修学旅行は研修という名目で行われるので、基本的に向こうの学校との交流がその内容のほとんどを占める。そのためあまり自由に外を歩けないし、まして旅行の途中で空港に抜け出すなんて不可能。
「ところがどっこい、桔梗の帰国日はお前と同じ日だ。その上お前らの研修日程の中にメルボルンで開かれる音楽祭があるだろう?それにこいつは参加する。」
そうなのか、なんという偶然、と驚いたが。
いやいや、待て待て。何でこの人僕の旅行日程把握してるんだ。
それに例え同じ日に同じ空港使うにしても、広すぎる。時間だって被るかわからないのに会えるなんて思えないんだが。
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