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「そんなにうまくいきませんよ!」
僕の叫びに爽矢さんは耳を貸そうとしない。
「うまくいかせろ。大丈夫、お前はやれば出来る子だ。」
「いやいや、何言ってるんですか。こんなの運任せだし。」
「運も実力のうち。期待しているぞ、高天。」
親指を立ててウィンクを飛ばしてくる爽矢さんにほんのりと怒りが沸き上がったのは無理からぬことだと言ってほしい。
自分はやらないことを人にやれということほど簡単で無責任なことはない。
「爽矢殿は楽天家やなあ。」
面白がるようなあきれるような口ぶりで爺様が爽矢さんの肩をたたいた。
ただこの無茶苦茶な案を却下することはなかった。つまりは僕がこの桔梗さんという人物に接触することは確定したわけだ。
「その桔梗さんって人に接触できたとして、僕は何をすればいいんですか?」
「そうだな、とりあえず顔を見ろ。直接な。その時なんかこう…ビビビッてくるかを確認するんだ。」
「は?」
何を言っているのかわからず口があんぐりと開いた。なんだ?ビビビ?
「爽矢殿、そないな抽象的な表現やとわかるもんもわからへんで。それに、そんな簡単なものなんか?」
僕の疑問を、爺様が上手に言葉に変えてくれた。さらに僕も一言付け加える。
「それに、間違いなく菖蒲って人はいるんでしょうか?生まれ変わっていない可能性はゼロじゃないと思うんですが。」
爽矢さんは眉根を寄せてうなった。
「なんというべきかねえ…。菖蒲はたぶん生きているっていうのは俺は確信を持っている。じゃないと上賀茂の封印が説明できない。
すでに封印してから死んだっていう線も薄い。
俺たち哨戒士は互いが死ぬときそれを感じ取る――。胸中が何とも言えない寂寥感で満たされるんだ。
あと高天と菖蒲が会うだけで菖蒲だとわかるのかということだが。
そうだな、お前と早苗が初めて会ったときのことを覚えているか?」
もちろんだ。あの人は初めて会った僕に首を垂れて、「ずっと待っていた」といったのだ。
あの時僕は驚くことしかできなかった。
「あれ――先々代の頃、俺も同じことをした。文言もほぼ同じだったな。
俺たちの間には見えない絆があるんだと思う。俺たちの意思を超えたところでのつながりだ。
俺たち哨戒士と高天との間にあるこの強い結びつきが、早苗のような行動をとらせたりするんだろう。
もちろん健のようにそう言った行動に出ないものもいる。個人差はあるから、お前が菖蒲にあっても何か感じるとは限らん。
ただ、もし話す機会があるなら、確実に桔梗が菖蒲なのか確認できるぞ。”高天”であるお前が命じれば哨戒士である俺たちは逆らえないから、”お前は菖蒲か”と聞けば相手が正体を隠していても真実がわかるはずだ。」
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