第九幕

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――僕が命じれば。  それは健が僕の命令で力をコントロールできるようにということか。   「まあその状態になるためにもお前はちゃんと桔梗と話をする状況になれよ。」 「結局はそこになりますよね…。」 「菖蒲が本気になればそもそもお前と二人きりになる状況はつくらんだろうから、作戦は練ろうか。」  爽矢さんはにやりと笑って僕に一枚紙を差し出した。英語で書かれた何かのポスター。コンサートと書かれているのはわかった。その裏には手書きの文字で旅行日程表のようなものが書いてある。 「それが袂から聞き出せた桔梗の旅程だ。帰国日は同じだし、復路便はお前と違うけど、出発時刻が1時間程度しか違わない。 あとこのコンサートな。桔梗が出るらしいから。」  何故桔梗さんがコンサートに出るんだ?首を傾げるとすかさず爽矢さんが「あいつヴァイオリンやってんだって」と教えてくれた。  御剣の人間にしては珍しい習い事だ。ピアノやってるやつは聞いたことがあるが、それ以外はみんな琴とか、和楽器を好む傾向にあるから。 「ヴァイオリン…。高尚な習い事ですね。」 「結構高い評価を得ているらしいな。国際コンクールにもいくつか出てるらしい。早苗の話だと頭もいいし、モテるみたいだな。」 「完璧じゃないですか!」  彼女いない歴が年齢とイコールの僕とは雲泥の差だな。  たしかに見せてもらった写真は大人っぽい綺麗な顔だった。不思議な色気があって、本当に日本人かと思ったくらいだ。  先代、先々代のときの菖蒲様の写真も見たが、どちらとも違う雰囲気だ。顔は変わっても不思議じゃないけど、性格とか得意不得意は変わるのかな?前の代のときの記憶があるなら前の時に身につけたものを極めれば天才児が出来上がるんじゃないだろうか? 「前の代の時の菖蒲様ってヴァイオリンとかしてたんですか?」 「いいや、音楽の類はされてるところ見たことないわ。」  僕の突拍子もない質問に答えたのは爺様だった。爽矢さんもうなずく。 「俺もない。あいつは基本娯楽といえる趣味は読書くらいのもんだったし、何より先々代のころはクラシックは敵勢音学だったし。」  そうか、先々代は第二次世界大戦の頃に生きていたんだった。そのころは西欧諸国発祥のものは倦厭されたと社会の授業でもならったな。 「そのくせ、士気向上のためとかでラッパはよく吹くんだから、意味不明だよな。」  ため息まじりの爽矢さんの呟きにいつものように爺様が突っ込む。 「まあ、それが人間やろ。なんでも都合の良いように解釈するんは儂等も持っとる特性やな。」 「修二郎殿は時々菖蒲みたいな言い回しをするなあ。弟子ってのはそういうモンなのかね。」 「あんたの弟子はあんたと違うてしっかり堅実な方が多かったけどなあ。」
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