第九幕

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 なんだかんだで仲のいい子の二人に話題を持っていかれた。二人は先々代の頃から知り合いなのだから仲がいいのは自然なことなのだろうか。 「爽矢さんは昔から爺様と仲がいいんですか?」  二人は揃って首を横に振った。 「いいや、昔はこいつ菖蒲の道場にずっといたから接点は数えるくらいしかないぞ。 しかもたまに会っても、俺が面白がってからかうから昔は俺のこと嫌いだったんじゃないか?」 「ようわかってはるわ。それならもうちょい気遣って話してくれはったらよかったのに。」 「まあ俺も若かったということで。」  そうか、記憶を受け継いでいるからって、人間関係まで同じようになるわけじゃないんだな。 「まあ、相手は俺たちがいない間も歳を取ってるから、性格も丸くなったり、逆に頑固になったりするだろ。 前に仲良かったからって仲良くできるわけじゃないし、仲が悪かったからってそのままその関係性が続く訳ではないだろう。 お前だって、幼い頃と多少は性格が違うだろ? よく偉人や、凶悪事件の犯人の幼い頃を振り返るテレビ番組やってるが、あんなもの何の意味があるんだかな。 幼い頃引っ込み思案でも、社会に出る頃には社交的な楽天家になってることもある。 昔は悪さばかりしていた奴が心を入れ替えて真面目に仕事をすることもあるだろうに。」  なるほど。確かに。趣味趣向や性格は歳とともに多少変わるものだ。 「じゃあ生まれ変わっても前の自分と今の自分変わったなーって爽矢さんは、思うんですか?」 「思うぞ?まあ周りが変わるからな。見た目も変わるし。前よりは大人しくなったかなと思う。それがどうした?」 「いや、桔梗さんがヴァイオリンやってるって聞いたので、もし桔梗さんが菖蒲だとしたら、前から好きだったのかなって思ったので。」  かなり話が飛躍してしまったが、元々はそのことを考えていたはずだ。  僕の言葉に爽矢さんは首を傾げた。 「うん。好きか嫌いかは変わるかも知れんからなんともいえないな。実際俺も、昔は好きだった鰤大根、今はそんなに食べないし。 ただ、得意不得意はあんまり変わらないイメージだな。 俺は前の時も菖蒲みたいな繊細な知能戦は難しかった。今もやっぱり得意じゃないからな。菖蒲は歴代ずっと参謀みたいな役割だったらしいし。」 「能力的な問題のせいやな。記録を見る限りどの九頭龍と胡蝶も、どっちも力技が得意で知能戦は不得手やな。逆に菊端は情報を分析した戦いが得意や。 せやから、生まれ変わりやから得意不得意が変わらへんってわけやないと思うで。 武術以外のところは分からへんから、菖蒲様が昔から音楽関係得意やったかはなんともいえへんけど。」 「まあ、あいつの場合何世代もの記憶持ってるからな。どっかで音楽やっていた可能性は否定できないな。」  なるほど。つまり音楽が得意だという事実だけじゃ、桔梗さんが菖蒲様かどうかは分からないってことか。
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