第九幕

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 コンサートのチラシを見ると色んな国の学生が集まって演奏して、人種の枠を超えた協力を謳ったもののようだ。  指揮者はアボリジニーの男の子がやると書いてある。白い歯を見せて笑う少年の写真が白抜きされている。  それ以外のメンバーは第一ヴァイオリンの白人女性だけが紹介されている。 「これ、桔梗さんがでるんですよね?」 「そう聞いてるけど。」  まるで別世界の人間だ。すごい人が世の中にはいるもんだ。 「菖蒲様が桔梗さんだとしたら、この先どうすればいいんですか?」 「うむ。まずはなんで現れなかったか理由きかねえと。それに他の哨戒士に戦い方教えてもらわねえとな。」  今、それまでの哨戒士としての記憶のない早苗さんと健は、先代たちのお弟子さんで、今は御剣家の道場の指導者をしている人たちのもとで武術を習っている。  でも本来は、菖蒲様がまずは力の使い方を手ほどきして、それぞれが自分の力に合った戦い方を選んで道場入りするそうだ。  ちなみに爽矢さんは菖蒲様にすぐ、「力を存分に使える斬馬刀のような大刀か、素手が合ってるだろう」と言われ、体術の道場に放り込まれたらしい。  ただ、その時の体術道場の師範と反りが合わなかったので結局大刀を武器にすることになったのだとか。  そのためか爽矢さんは、一応槍術道場の師範代だが、ついたり薙いだりするより槍を振り回す方が得意なようだ。  そして人に教えるのが壊滅的に下手くそだ。 「菖蒲様は、人に教えるのお得意なんですよね?」 「まあ、人は選ぶがな。あいつの戦い方は、あくまでも“死なない”ためのものだから。 今でもあいつの戦い方に反発するものはいる。正々堂々戦いたいやつには不向きなんだよ。 だが実際、俺たち人間は姑獲鳥と正面斬って闘うのはかなり難しいし、あいつのやり方の方が人死はでない。だからかあいつのやり方や戦い方を理解して踏襲できればかなり強みだろうな。」  前に幹部会にいた時も思ったが、爽矢さんは菖蒲様のことを思い出して苛立つことはあるが、嫌ってはいないようだ。  それどころかかなり信頼を置いてる印象を受ける。  爺様も。菖蒲様が現れないことに焦っているとはいいつつ、不安な様子はない。  菖蒲が現れないのにはちゃんとした理由があると考えているのだろう。  そこまでの信頼を置かれる人である一方で、幹部会では菖蒲を揶揄する人もいた。  なので爽矢さんや爺様に、何度菖蒲様の人物像を聞いても正直しっくりとはこないのだ。  
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