第九幕

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 しっくりこないからか、桔梗さんが菖蒲かもと言われても「そうなのかな?」という漠然とした疑念だけが心の中に残る。  だから正直、会うのも乗り気じゃない。しかもよりによって海外で会ってこいとかーー。  そもそも桔梗さんが菖蒲である確率ってどのくらいなんだろう?彼の養父である(たもと)さんは否定しているのに。 「本当に桔梗さんが菖蒲なんですかね?」 「それを確かめねえと前に進めんだろ。違うならそれはそれでいい。次を当たるだけだ。」  爽矢さんはそれでいいかもしれないけど、こっちは下手すれば見知らぬ親戚に恥を晒すのだ。  少しはこちらの気持ちも酌量してはくれないだろうか。思わず溜息が漏れる。  まあ、もう何をいっても無駄なんだろうが。人生諦めが肝心。こうなれば言われるがままやってみる他ない。  僕は修学旅行の準備で忙しい中、爽矢さんに言われるがままに、桔梗さんの情報を頭に叩き込んだ。  そうして僕は、8月某日真夏の関西国際空港から、冬のメルボルン国際空港へと旅だったのだった。
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