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彼はまっすぐこちらを見ていた。
首に巻いたマフラーがふわふわと風に揺られる。本当に一枚の絵画のように美しい。思わず息を呑んだ。
彼はしばらくこちらを見つめていたかと思うもふっと顔の向きをかえてすたすたと大学構内に入ってしまった。
「なんやあれ?」
「モデルみたいやったな。めっちゃスタイルようない?」
皆が口々にそう話す中で、僕だけは唇を噛み締めて彼が消えたほうを見ていた。
彼は僕を見ていた。そう断言できる。彼は僕に気がついた。
ドクンと胸が高鳴る。あの人は僕を認識してた。
どうして?袂さんに聞いてたのか?それだけか?
それとも偶然か?こっちが見ていたから見返していただけなのか。
やはりあの人が最後の哨戒士ーー菖蒲なのか?
自分の中で消化しきれない思いを抱えたまま、僕は仲間と一緒にその場を離れた。
その後はノーステラスを歩きながら、お土産物を見た。他の面々がブーメランやクロコダイルジャーキーを大量に購入するのを見ながらも、心の中にはさっきの桔梗さんの姿が居座っていた。
爺様や爽矢さんと連絡を取りたいと思ったけれど、国際電話をこっそりかけることもできない。彼は何故、アデレード大学にいたのだろう?爽矢さんが把握した彼のスケジュールにそんなもの入っていただろうか?
考えがぐるぐると回って亮介が途中で買ってきてくれたお菓子の味もわからなかった。皆が甘すぎるとミネラルウォーターを大量に飲む中、僕は機械的にそのチョコレート菓子を咀嚼していた。
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