第九幕

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 僕はその後、なんとかして爺様や爽矢さんに連絡を取ろうとしたのだが、こういうときほど予定は狂わされるものだ。  なんとか友人に見つからないように国際電話をかけようと、公衆電話を探すのに、見つけた瞬間に誰かに声をかけられたり、他の人が電話を使ったりする。  もう仕方ない、コンサートで運良く話しかけられたならそのときにノーステラスでのことも聞こうと決意したが、そのコンサートすら行けるか怪しい雲行きになった。  コンサートを前日に控えた夕方、先生たちは何やらドタバタし始めた。生徒たちもそれに気がつき、なんだなんだと騒ぐ。  すばしっこくて野次馬根性の強い生徒が先生たちの会話を聞きに行ったのだが、どうやらこの近くで遺体が発見されたようだ。  殺人か事故か自殺かもわからぬ状態で、明日のコンサートを中止すべきか話し合っているようだった。夕食のとき「事件が近くであったようだ。皆の安全が確保できるか相談して明日のスケジュールを決める」と知らされた。  なんと、そんなことになろうとは。やはり海外は日本ほど安全ではないようだ。  テレビを見てみると成人男性の遺体が近くの大学構内で見つかったということだった。  細かい内容は英語が聞き取れずわからなかったが、事件の可能性が高いと考えられているようだ。  しかし翌朝には「例の事件は近くで飼われていたクロコダイルが抜け出して人間を襲った。もう捕獲されているから安全だ」と、結局コンサートには参加することになった。  一応安全のためにバスで会場の入り口までつけてもらえることになったがそれ以外に大きな変更点はなかった。  クロコダイルが人を襲うとは事前に聞いていたが、まさか身近で起こるとは。皆怖がっていたが、半分面白がっていて本気にはしていなかった。なので、ワニが実際に人を襲ったと聞いたときは流石にざわつきが大きかった。  だがそれもコンサートの朝には静まっていた。  コンサート会場の2階が僕らに割り当てられた席だ。他にも外国人の中学校が来ていた。僕は正直音楽のことなどほぼわからないが、このコンサートの規模が大きいことはわかった。かなりの人数が収容された。  しばらくして、ブザー音とともに会場が暗転する。舞台だけがライトアップされ、演奏者が次々と出てきた。  司会らしい年配の男性が何か英語で話をし始めた。英語教師がコソコソと周りに座る生徒に通訳しているのを聞くと、どうやら今回のコンサートの趣旨を説明しているみたいだ。  その後ろで奏者は自分の楽器を手にとった。ヴァイオリンは向かって左側に集まっている。その中に彼はいた、桔梗さんだ。  何やら横に座っている生徒と会話しながら手にしていたヴァイオリンを左肩に乗せた。  
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