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日が西の空に沈む頃、冬の冷たい空気の中を人影が二つ現れた。
片方の長い影がゆっくりと低い声でもう一つの影に話しかける。
「やはり、例の事件は奴らの仕業のようです。」
もう一人もうなずいて応じる。
「だろうな。そうホイホイと都合よく事件が起こってたまるものか。
問題はそれが隠蔽されているこの現状だ。
この国に残された奴らの協力者が政府や報道機関に圧力をかけられる立場にあるーー。
おそらく目覚めの時にも奴らに居場所を提供することだろう。そうなれば再び世界を巻き込む戦争が起こることになりかねん。
それは私の望む結末ではない。」
その答えに長い影の持ち主は頷いた。西日が照らす顔には壮年のしわが刻まれている。
「では如何しますか?あれを処分するために例の場所に?」
「それもしたいところだが、それ以上に今起こっている事態の収拾が先だ。逃げたマウスは一匹じゃない。鳥たちが教えてくれる情報から少なくとも3匹ーー。あと2匹はこの闇の中にある。」
「しかし…なぜこのタイミングで。」
渋い顔をする彼にもう一人は肩を竦めた。
「仮説はある。しかし今はその仮説の真偽を証明はできん。処理は私がやろう。お前はホテルにいろ。」
その言葉に、彼は眉をしかめて反論した。
「それは承服しかねます。私があなたについて、態々ここに来た意味がなくなる」
「意味はあった。十分だ。お釣りが来る。それにお前にはあの世間知らずのお坊っちゃんを任せたはずだ。」
「…。」
全く納得できないが、致し方ない。この人は言い出すと聞かないのだと男は溜息を吐いた。
「任せられてあなたの望む動きができるとは思いませんが。」
「私は無茶は望まない。お前にできること以上は要求しない。マウスは私が回収する。」
相手のその迷いない言葉に、壮年の男はさらにしわを深くした。
「不満そうだな。」
「私はあなたを守るためにあるのです。」
「見解の相違だな。私は私の弟子を名乗るものをそのように見たことはないよ。お前も例外ではない。」
長い影の持ち主は更に反論しようとしたが、遮られる。
「案ずるな。私はお前が思うより強い。あの程度ならすぐ処理可能だ。寧ろ今は複数で動いて目につくほうがリスクだ。」
「あなたの強さはよく知っていますよ。ただ私はまたあなたに守られるべき存在なのですか。」
ふふふと忍び笑いをこぼし、相手はその長い影に近づいた。
「そうすねるな。マウスについては正直できるだけ静かに処理したい。お前を信頼していないわけではない。信頼していなければ、あの時お前に声をかけたりはしない。」
「…。」
それ以上、彼は口を開かなかった。
そうして二人は別れ、闇の中に消えていった。野良猫がその様子をただじっと見ていた。だじっと。
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