第九幕

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 コンサートから帰ってきてからずっと僕はそわそわしていた。  なんとか今日は国際電話を掛けにいきたい。  誰にもバレないように。  そのためには当然のことだが夜に動かなければいけない。宿泊してる宿の電話は夜中、頻繁に先生が見回りに来るらしいと聞いたので危険だ(既に数名の同級生が見つかって反省文を書いてる)。  だとすれば一番安全なのは一度宿を出て大通り沿いの電話ボックスに行くことだろう。  もちろん外に出るときと戻ってくるときのリスクがあるが、少なくとも一度外に出れば安全だ。  外に出るまでの通路にも先生の見張りがいるけど、一番先生が警戒してるのは男子が泊まる棟と女子の棟の間にある渡り廊下だ。そこを避けて裏から出れば見つからないだろうと踏んで、僕はその晩、早速行動に移った。  今日は疲れたからと、同室メンバーより先に寝床に入る。日本の旅館と違い、ホテルは一部屋にそんなに人数が泊まれないので1人欠けるとみんな興が冷めてすぐ寝自宅をはじめるか他の部屋に移動すると予想したからだ。  案の定、一人は僕と同じようにベッドに入り、もう一人は隣の部屋に移った。  寝ている友人の寝息が安定してきたタイミングで、僕はそっと部屋を出た。  狙いをつけていた道順で非常口まで移動した。途中見回りの先生の姿が見えたけれど、なんとか泊まっている棟から中庭に出れた。  そこから裏に回ると一人の先生が他の生徒を連行しているところだった。  ちょうどそこが手薄になった瞬間だったのだ。これはチャンスとそそくさと裏口から外に出る。  思いの外うまく僕は外に出ることができた。  あとは目星をつけていた電話ボックスに入るだけだ。夜中なのもあって、誰もいない。もう一度あたりを見回し、誰もいないことを確認して道に出ると小走りで中に入った。  ここに来る前に調べていた国際電話のかけ方のメモを見ながらボタンを押す。かける先は爽矢さんの携帯だ。  国内にかけるときより時間はかかったが無事に呼出音がなった。   『はい。』  少し遠いが、確かに爽矢さんの声が返ってきた。 「爽矢さん。僕です。高天です。」 『おお。高天原か。公衆電話からだったから誰かと思ったわ。』 「すみません。でもちょっと助言をいただきたかったので。」 『助言?』
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